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EXECUTIVE INTERVIEW

売り物は変わった。売り方は変わらない。
だから90年以上経った現在も存続を許されている。

三谷産業株式会社
代表取締役社長

三谷忠照 氏

まず『理念ピラミッド』を見て思うことを聞かせてください。

「この資料(理念ピラミッド解説図)にある『道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である』は私も好きな言葉です。あえて付け加えるなら“アクションプランなき経営理念は寝言”だとも思います。理念を念仏のように唱えるだけでなく、いかに戦略を立て、実行し、同時に自らの能力を高めていけるか。経営理念に掲げた理想の会社になるためには、やはり具体的な方針や計画、行動や能力が必要だと感じます」

その点を踏まえてどんな経営をしていますか?

「目標管理を大事にしています。よくボトムアップと言いますが、『新しいアイデアを歓迎します』といってもダメなんですね。『いつまでにいくつのアイデアを提出してください』といった数値目標にして、それを管理するやり方を採ります。目標というのは人間にすごい力を発揮させます。成長への意欲を高めることにもつながります。いわば仕事のフローをデザインするわけですけど、私自身(目の前のコーヒーカップを指して)カップの取っ手をつくるのが好きなんです。取っ手があるから自然と手が伸びて、カップを持つようになるでしょう。つまり、人がアクションを起こす取っ掛かりをつくる。これと同じように、数値目標は行動を生むひとつのキッカケになります」

とはいえドライな数値目標だけでは難しいでしょう。最後は人間力が必要なのでは?

「そのとおりですね。理念に近づくためには、もとより行動指針や行動規範によって養われる人間力も重要です。“具体”と“抽象”のバランスが大事とも言えますね。数値目標やアクションプランなどの具体的なものだけだと、新しいことに対処できない気がします。人間力というのは抽象的なものですが、人に対する評価も、数字では表せない事柄に目を凝らすことが大切です。弊社には『MITANI AWARD』という社内イベントがあります。これはグループ全社員で共有する成功事例の発表会で、予選を経て最終選考に残った人は職場のヒーローみたいになる。入賞して涙を流す人もいます。全社をあげてそういう仕立てにしていることもあるんですが、評価されて感動する様子を目にすると非常に大事なイベントだなと感じます」

考え方や価値観の共有はどうやっているんですか?

「会長が著した書籍を社員に配布していて、そこには創業者から継承されてきた考え方やエピソードが綴られています。全5巻におよぶボリュームで、その書籍を教材にした『三谷イズム検定』という催しを社内で実施しています。毎年全社員の8〜9割が受けていて、BASIC・ADVANCEDという具合に級数があるんです。この検定は私たちの大切にすべき考え方や価値観を共有するという点で大いに貢献しています。一方で、理念を図解しながらわかりやすく説いた資料などもつくっています。たとえば弊社の経営理念の中には『利潤』という言葉があります。その利潤とは何か?生まれた利潤はどう分配するのか?その利潤をもって社会にどう貢献するか?といったことなどを、ビジュアル化して解説していくんです。弊社にはベトナムなどにも多くの社員がいるので、現地の人たちに理念を伝えるためには、こういうものが必要になってきますね」

三谷産業の理念やDNAは創業時から変わっていない?

「誤解をおそれずに言うと、三谷産業は売り物にこだわらない会社です。商材が先にあるのではなく、まずお客様の困りごとや求めるものがある。時代の流れで求めるものが変われば、私たちの売るものも変わります。ただし、売り方はずっと変わらないんですね。80年以上前のエピソードなのですが、あるお客様から石炭10トンのご注文が入った。創業者は『本当に10トンも必要なのかな?』と考えて、お客様の生産設備や生産計画を細かく調査して、綿密に計算した。結果『6トンで充分ですよ』と提案した。目の前の売上はさて置いて、お客様の最適を見極めて行動したという話です。そういう売り方は、いまもDNAとして息づいています。現代でいうと、たとえばお客様の倉庫に在庫があふれるようになって、『在庫管理システムを見積もってほしい』というお話をいただく。そのとき『本当に在庫管理が必要なのかな?』と考えるわけですね。石炭と同じように、設備や計画や在庫の生まれるプロセスを見ていくと、むしろ過剰に生産する仕組みに問題がある。そこで『最適な量を生産するための生産管理システムを今回ご提案します、いかがでしょうか?』と」

単なる卸売業ではない。商社たるゆえんですね。

「自分たちを石炭の卸売業者だと思っていたら現在はないでしょうね。お客様の真の困りごとの解決策が私たちの商品です。結局お客様や社会のお役に立ち続けないといけないのだと思います。ものを売るだけ売って儲けようというスタンスだったとしたら、我々はとっくに存在していないと思います。そんな会社は世の中にないほうがいいのですから」

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